2025年の9冊
(好き嫌いではなく何らか印象に残った本の読んだ順)
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『ゲーテはすべてを言った』 / 鈴木結生
2025年1月の芥川賞受賞作。内容は最近注目を集めている社会的な問題(ジェンダーとか弱者注目系)とは違うテーマを扱っている。
表向きはアカデミックな世界の話だけど、内容はもっと普遍的なこと。言葉やその根拠についての考察。これはすべての社会問題に通底する大事な視点であること。
そういう作品が芥川賞を取ったことは、意義があると思った。
わたしたちは他者の言葉を頼りにして生きている。しかしその言葉の根拠は何なのか?なぜ信じる・頼りにすることができるのか考えたことはあるだろうか?
発話者の権威を拠り所にしているだけでは?
または誰が言ったかわからないような言葉に力をもらうこともある。何の権威もない普通の人の言葉が生かしてくれていることもある。そういう体験はないだろうか?
自分が言葉を受け取る時、どうしてその言葉を信用するのかを考えたい。そして自分が発する言葉への意識についても関心が高まっていた時だったので、すごく印象が強かった作品。
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『黄色い人』 / 遠藤周作
短い作品だけど、芥川賞受賞の『白い人』より好きだった。何がって言われるとちょっとうまく言えないけども。よく考えてみたい。
短いのにものすごくそういう気持ちにさせてくれて、文学っていいなって感じた。
日本文学は苦手だけど、少し昔の人の作品は好きなものが多い。テーマが今の時代とは違ってるんだろうか。でも時代の問題意識が盛り込まれてはいるのだろうから、その点では同じだろうし。
とにかくわたしの中の何かが反応していることは確か。
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『モデラート・カンタービレ』 / デュラス
放送大学の授業で課題図書になっていた。授業を経たことで自分の読解が深まり、さらに充足した読書体験となった。
ルーティンのようになった日常は死と繋がっている。死を願う登場人物たちだが、自ら秩序を壊し再生していく力がヒロインを動かしたが、敗北した。けれどそれは敗北ではないのでは?
描きすぎないことによって、それを暗示し読者に語り掛ける文学作品の力に哲学とは異なる面白さを見た。
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『ティマイオス』 / プラトン
プラトンの作品で一番読まれたのは『ティマイオス』だという。現代では『国家』らしい。
この違いは大きいなと思う。つまり科学の台頭で、プラトンの受容の仕方に変化が生じたということだろう。
むしろ『ティマイオス』が読まれなくなっていった、あるいは長く関心の中心だったことが取り上げられなくなったという事実に、なんらか現代人特有の思い込みがありはしないか?読み方が変化するのは当然だとは思うけど、いまはもう魅力がないということになるのかどうか。
わたしはむしろ、膨大な研究が積み重ねられた現代の知識に基づいていないことや、このような個性的で面白い発想をバンバン繰り出していた古代ギリシアの人たちの探求心、好奇心がとても素敵で羨ましいなと思ってしまう。そして実は、科学の説明よりも魅力的で納得させられてしまうのだ。たとえ算数が苦手すぎて何言ってるかわからなかったとしても。
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『エウテュプロン』 / プラトン(原典講読)
全部、先生の50歩ぐらい後ろからついていっただけだけど、古典ギリシア語で読み切った!達成感MAX。ありがとー!!な1冊。
わたしみたいに日本語でもうっすらとしか読めない人間にとって外国語はハードルが高すぎるんだけど、ゆっくり一つずつ単語をたどって読むと、プラトンが何を問題にしているのかがわかった。敬虔なものだから神々に愛されるのか、神々に愛されるから敬虔なものなのか。終わりの方、こればっかりなんだけど、でもこの違いはすごく大事なんだね。
どう違うのか、なぜか一瞬ではわかんないんだなあ。いまでもゆっくり考えて喋らないと間違っちゃう。でもそうやって読めるようになったことはすごく嬉しいし楽しかった。
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『ゆる古代ギリシア哲学入門』 / ネオ高等遊民
古代ギリシアの哲学者たちに残っている逸話から学説を見てみる、という試みは、「どんな気持ちでこの言葉を言ったんだろう」と考えがちなわたしにとってはすごく馴染みやすかった。
逸話が本当かどうかはわからない。だけど、その人が生きていたことを何らか伝えているのが逸話だから、その逸話には本人やその人に思いを馳せる人たちの気持ちがあるわけで、これまた現代に生きてる自分が思いを馳せられるという、勝手に繋がっていくスタイルで読めるところが楽しい。
おならのエピソードがとても気に入っている。
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『百年の孤独』 / ガルシア・マルケス
最初慣れるのに少し時間がかかったけど、慣れたら一気に読めた。
登場人物がみんなヘンテコで、なんか真面目で滑稽。「ああ、人間って確かにこうだなあ」って思った。
現実のようなどこか不思議な世界のような、そういうぼんやりとした世界なのにくっきりとした輪郭が見える。匂いや温度や湿度が密に混ざり合った世界。
整った美しい調和の世界ではないけれど、いろいろなものが混ざり合い分離しながら、形を変えつつ変わらないものが流れていて、濃厚だけど不思議と胸やけしない面白さがあった。
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『プラトンが語る正義と国家』 / 納富信留
納富先生の『国家』講義を文章化したものなので、再読の時は手もとに置いて読み返したい。
自分の考えるプラトンと一致するところもあるし、たぶん違うところもあるはず。だけどまだそこまでプラトンを自分の身になる読み方が出来てないから、すごく受け売りになってしまうし、それは仕方がないことなので、ちゃんとした学者さんの定説を踏まえてきちんと読む練習のために、とても良い本。
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『その気持ち、なんて言う? プロに学ぶ感情の伝え方』 / NHK「言葉にできない、そんな夜。」制作班
選書サービスに入っていた本。
気持ちを言葉にすることと、伝えることは別のことだと思う。だからうまく言えなくてもいいし、うまく言えてない時の方がグッとくることも多い。
気持ちは個人のもので、誰とも共有できないから価値を感じる。だから、それを他者と共有するため、個人の雑味を手放してしまうことの弊害として、自分との距離を帯び、どこかに嘘が混じってしまうように感じる。それを悲しく思う自分がいて、伝わらなくてもいいと思った。
おそらく狙って伝わる言い方を考えると失敗する。それは媚びが入るから。そうではない表現が自分を表しており、本当のところのわからなさが、他者をひきつけるんじゃないだろうか。
好き嫌いを星の数で表すとこの本は星2で、そんなに好きではない本だったけど、気持ちを言葉にする時の考えを自分なりに深めるきっかけになったので、そういう意味で良い本だったと思う。